厘は口を固く結んだ。
初詣の日。意識を失った後のことを、一度も話そうとはしなかった。
あれから早一ヶ月。眉間に皺を刻み、深刻そうに思い伏せている彼の姿は珍しくない。言われずとも、自分が瘤になっている、と岬はすぐに理解した。だからこそ詮索は出来ない。怖くて、とても出来なかった。
聖バレンタインデーを目前に。世間が甘い香りで満たされていくなか、ぎこちない日々が続いた。
「岬。いいか」
「……うん」
そんな最中で、キスは何故こうも懇切丁寧なのか。
岬は彼のぬくもりと香りを取り入れながら、半分嘆いて、半分溶ける。そして、勘付いた。精気とともになだれ込む吐息が、今まで以上に甘美であること。
「んぅ……」
"注ぐ" よりも "塞ぐ" イメージで、何度も、何度も。角度を変える必要はあるの、と問う間も与えず。厘はそうして、キスを懇切丁寧に愉しんでいるようだった。
「妙に赤くなるな。最近は」
カァァァ———。
言われてさらに染めあがる。器用に持ち上がる口角から視線を逸らし、岬は口を尖らせた。