つまり、生まれつきではない。後天的に施された体質だという事。
しかし岬の本意ではなく、何者かの手が意図的に及んだ———彼女の性質を良いように利用している可能性も、無きにしも非ず。
……ああ、くそ。虫の居所が悪いにも程がある。
「そいつは、岬の扉を開けた奴は誰なんだ」
「……先を急がないでください。私の妖術でも、確実に、とは言えません」
これまで饒舌だったはずの唇が、平行線に結ばれる。厘はとにかく、と先を急いた。動揺が瞳を泳がせた。
「確実でなくてもいい。手掛かりでもなんでも、教えてくれ」
———その後。胡嘉子の放った『不確実な手掛かり』に、厘は目を見張った。不覚にも立ち眩む。血が少し抜けたような、これまでに覚えのない感覚だった。
‘ あの日、俺がいなければ ’
厘は額を押さえ、心許ない木造の柱に寄りかかる。「大丈夫ですか」と案じる胡嘉子の声など、聞き入れる余裕もなかった。
「厘さん。厘さん」
ようやく我に返ったのは、彼女が幾度も肩を揺らした後のこと。失っていた意識は、ほんの数秒に過ぎない。それでも、自分の体が異常を来していることに、薄々感づき始めていた。
「ああ……悪い。今日は帰る。ありがとうな」
「一遍に……あまり一遍に、精気を注がないよう気をつけなさい。いえ……絶対に、これだけは守ってください」
ふらつく足を滑らせる。その背に向かい、胡嘉子は被せた。
でないと、貴方が死にますよ───。
加えられた言葉に、厘は慄くことなく振り返る。
「俺が、岬を残して逝けると思うか。……この様だぞ」
放った瞬間。『使命』など、もう頭に無かった。