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「おい。何か変な事していないだろうな」

「ええ。もちろん」


完全に気力を失い、脱力した岬を抱え、本堂の外へと運ぶ胡嘉子。そして、彼女を庵へ引き渡した。
……ただ眠らせるだけなら、わざわざ外に追い出さなくてもいいだろう、と厘は睨み見る。


「随分と好いているんですね。あの子の事を」


彼女は気味の悪い笑みを浮かべながら「ああ、それよりも」と切り出した。


「岬さんは、異常なほどにお優しいですね」

「……何をいまさら」

「貴方なら痛感していると分かっていました。ですが、あえてもう一度言います。異常なほどに心優しいのです」


だったらなんだ。急かす厘に、胡嘉子は珍しく髪を耳に掛けた。眠気はすっかり醒めたらしい。


「あの子でなければ、完全憑依などあり得ないでしょう。いくら月が出て居まいと、それ程に難儀なのです。霊にとって、憑依とは」


久しく除いた金色の瞳に、厘は息を呑む。岬が憑依体質たる所以は「岬自身が原因」とでも言いたいのか。