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リリィ。
そう呼んだ母の声が、残像となり脳を霞める。瞬間、岬の視界は閉ざされた。来た時と同じく、再び眩暈の渦に苛まれる。しかし、往きと違う出来事もあった。
『岬。私はいつでも、見守っているからね』
母の声が、奥底で響いたこと。金縛りのように固まった体が、優しく包まれたこと。すべて、懐かしい気がした。
———「岬さん。終わりましたよ」
気が付いた時。岬は長い髪に埋もれていて、涙を流していた。胡嘉子が抱きしめてくれている、と悟るまで、時間を要した。
「随分長い旅をしていましたね。少し心配しました」
頭上で響く、波長の緩い声。岬は涙を懸命に拭い、彼女を見上げた。
「あの、わたっ、わたし……」
息はうまく整わず、吃る声。
「大丈夫ですよ。あなたの旅は、決して悪いものではありません。きっと何か、意味があるのだと思います。それに———」
胡嘉子は岬を再び抱きしめながら、厘に視線を向けた。
「少し、厘さんとお話があります。岬さんは、庵さんと休まれてください。……ああ、そうそう。憑依されていた霊魂は旅と同時に離れていきましたので、ご安心を」
プツリ———。
ブラウン管のテレビの、電源を切られたような音。同時に深く落ちていく。抵抗の余力も、気力も残っていない。
胡嘉子の腕のなか、岬は深い眠りについた。