「聞いていたに決まっている。……いや、聞かされていた、と言う方が正しいかもな」
「……?」
「飽きるくらいに聞かされていた。『自分が居なくなった後も、必ず岬を護ってくれ』と」
今まで頭の片隅に眠っていた記憶。それでも余程印象に残っていたのか、手繰り寄せるまでに時間はかからなかった。花開く鈴蘭に向け、こっそり呟いている華奢な背中が、記憶に点った。
お母さん、もしかして———自分の前途がそう長くないことを、ずっと昔から知っていたの? そう遠くない未来で、私の傍に居られなくなってしまうことも。
「だから俺は化身として現れたんだよ。岬の前に」
「お母さんとの約束を、守るために……?」
「あぁ。それが俺の使命だからだ」
少し歪んだ視界の中で、頬を緩めるリリィ。棘のないその笑みは、鈴蘭の毒気を抜いたように朗らかで、不覚にも生暖かい涙が溢れた。
「じゃあ……倒れた私を引き戻してくれたのは、リリィなんだね」
彼の世へ差し伸べた私の手をとって、引いてくれたのは———。
心の内で続けると、湿った瞳に羽織りの袖を押し当てられる。かと思えば、ぶっきら棒に「ああ」とそっぽを向くリリィに、思わず笑みが零れた。