見返り。厘が懐から取り出した果実に、岬は目を丸くする。
屋台で林檎飴として売っていたはずの、林檎が現れたからだ。もしかして、店主と交渉したのだろうか。妖花は “生” の方が好きだから。


「まあるい……赤い……」

「ひと手間かかっている。大事に食えよ」


胡嘉子は林檎を受け取るなり、大きく喉を鳴らす。暖簾のような長い髪から覗く口角は、不気味さを一層引き立てていた。


「いいでしょう。これで手を打ちます」

「頼んだぞ」


よほど林檎が嬉しかったのか、否か。

瞬きの直後、目と鼻の先に及ぶ胡嘉子の微笑み。今までの様子からは考えられないほどの機敏さで、彼女は岬と距離を詰めた。


「岬さん。私は対価を受け取りました。ので、貴方を透かしたい(・・・・・)と思います」

「すかす……?」

「はい。この手で触れることで体内を巡ります。もちろん、脳の海馬も例外ではありません。つまり記憶も辿る為、私はこれを “旅” と呼びます。いいですか? その間、貴方にも旅が巡ります。酔わないよう私も気を付けますが———」


息継ぎのない長い説明の中、ようやく見えた胡嘉子の瞳。金色(こんじき)を成したその大きな瞳に、吸い込まれそうになった。厘や庵にはない奥深さが、彼女の瞳には在った。