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線香と木の匂いが擦れ合う部屋の隅。目先に広がるご本尊。氷の上かと錯覚するほど冷たい畳。
「勝手に入っていいのかな……」
明かり一つ点らない伽藍の中を見渡しながら、岬は不安げに呟いた。
「大丈夫ですよ。ここはまだ外陣ですから。どちらにせよ、今日はお坊さんも不在なので平気です」
胡嘉子は脱力したまま、半身になって振り返る。
彼女にも、ここに住む人間との接点があるのだろうか。厘との関係を重ねながら疑問に思う。砂利を這って出てきた様子からは、とても一緒に住んでいるとは考えにくいけれど。
巡らせている内、胡嘉子は今度こそ振り返る。
「ここに、座ってください」
示されたのは紫色の座布団の上。岬は言う通りに膝を折る。慣れない着物が、少し崩れた。
「それで、厘さん。見返りは何かありますか」
隣に座る彼に、胡嘉子は問う。
「やはり、無償で、というわけにはいかないか」
「当たり前です。妖力を使うのですから……。ただでさえ、今日はゆっくり寝て居たかったのに」
「分かった。ほら、これでいいか」