「久しぶりだな。胡嘉子」
コガネ———。庵にゆっくり背を押されながら、岬は足を進める。履き慣れない下駄が、砂利をゆっくり擦る。どうやら庵も、彼女が何者なのか分かったらしい。
つまり、二人の知り合いということになるのだろう。
「胡嘉子も、あいつも俺たちと同種。……だが正直、俺は苦手だ」
後ろから控えめに響く声。背を押したのは、庵自身を隠すためでもあったらしい。岬は “同種” という言葉に納得し、厘の横についた。
「此れは菊の化身。同じ妖花だが、特別な妖術を持っている」
特別……?
そう首を傾げると、厘は頷きながら岬の手を引いた。徐々に縮まっていく胡嘉子との距離。苦み走る一見爽やかな匂いが、次第に鼻腔を突いた。
———『まだ若かったのに可哀そうねぇ。風邪を拗らせて亡くなったんですって』
その香りは、岬を引き戻す。土地勘もない場所で盛大に執り行われた、母の葬式へと引き戻す。まだ解像度は高い。棺の近隣、仰々しく飾られていた菊の花。何本も。何本も。何本も。