「おい、いるのだろう。顔を出せ」


本堂に向かい「おい———」と、厘は同じ台詞を繰り返す。痺れを切らしたのか、いよいよ本堂の床下を覗き込む。なぜそんなところを、と目を丸くする。砂利と本堂の間から “彼女” が顔を出すまで、岬と庵はその隙間に目を凝らしていた。


丸くしていた瞳は、早い瞬きを伴った。


『幽霊みたいだね』


中の声は冷静に放つ。岬は返答に困った。あなたも幽霊だよ、と言うのはさすがに野暮だろうか。


しかし、その指摘は的を得ている。


厘が呼んだ女性は、誰もが想像する霊の像に等しい。這うようにして砂利を引きずる彼女は、気怠そうな様子で伽藍の段差に腰をかけた。ひざ下まで伸びた長い髪を、無造作に垂らしたまま。


「……なんですか。何か御用ですか」


濁り気のない声が、細々響く。厘と庵が傍にいなければ、疾うに震えあがっていたことだろう。霊魂との意志疎通は普通に出来ているのに、と自分が少し可笑しかった。


でも目に見えているということは、霊ではない……? 串を咥えた庵の背から覗くように、長い髪の向こうを気に掛けた。