『なんでって言われても。“扉” が開いていたから入っただけだよ』
「……扉、だと?」
内側で反芻するとともに、復唱する。人の体内には “扉” なるものが存在するとでもいうのか。
『それより、僕甘いもの苦手なんだよねぇ。次はしょっぱいもの食べてよ。岬』
「う、うん……ごめんね」
年相応。我が儘なリクエストに、苦笑を浮かべる岬。そんな彼女を横に、厘は思い伏せていた。
扉———脳裏に描き出されたイメージは、この神社や祠に佇む両開きのもの。あるいは、鉄骨アパートのそれ。少年の口ぶりから分かるように、おそらく普通の人間の “扉” は閉まっているものなのだろう。
……ただし、岬は違う。なぜだ。なぜ———。
「岬。庵」
巡らせるも、思考回路は迷路をなしたまま。厘は二人を呼び、振り返る。そして、覚悟を固めた。彼女のもとへ行くのなら、今が頃合いだろう、と。