「オイ。俺の分はねぇのか」

「あるわけないだろ」


阿呆、それどころではない。得体のしれない焦燥感に襲われながら、庵を睨みつける。同時に、岬の後ろに憑く少年を見下ろした。


ビー玉のような丸い瞳に、透き通った白い肌。特徴は岬に似ているが、こちらを興味深そうに眺めるじっとりとした目つきは、なんとなく気に入らない。


……少しくらい慄いたらどうだ。まだ、みさ緒の方が可愛げがある。思い返すと随分懐かしく感じられる、あの卑しい顔を、厘は脳裏に浮かべていた。


「おい、そこの餓鬼(がき)


言いながら、岬に綿菓子を手渡す。少年は厘を見上げ、あっけらかんとした口調で『何?』と首を傾げた。


「お前はなぜ、岬に憑いた」


人混みに流されないよう、岬の肩を寄せる。図らずとも、彼女の温もりが肌に吸い付く。庵は “見えざる存在(もの)” に問う厘を、後ろから怪訝に見つめていた。