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アパートから徒歩十五分。「すごい人だね」と目を開く岬に頷きながら、厘はあたりを見渡した。
普段なら木枯らしの音も鮮明に響くはずが、年明け二日目の今日は全くもって聴こえない。この郊外の神社でさえ、以前訪れたセンター街の風体を為していた。
「ふん。物好きめ。初詣なんて一体なんの意味があんだよ」
岬の隣で庵は変わらず文句を垂れる。不本意ながら同意見。しかし、岬の着物姿は神社によく映える。これを見られるだけで、足を運んだ意味はありそうだ。
厘は横目に彼女を捉えながら、白い息を吐いた。
「去年一年の感謝と、これからの一年を祈願するんだよ。きっと、みんな大切な人を想って」
「そういうもんか」
「うん」
人でごった返す参道を歩きながら、厘は思い伏せた。やはり岬には白が見合う。先刻放った言葉は、揶揄い紛いでも間違いではなかった、と。
「毎年、宇美と来ていたのか」
「うん。毎年。……お母さんの健康も、幸せも。お祈りしてたはずなんだけど、ね」
語尾と眉を下げる岬に、庵は喉を鳴らす。同時に厘は思い出していた。あの手狭な部屋で、突然宇美が倒れ込んだ過去を思い出していた。