厘は視線を背け、もう一度息を吐いた。


「ねぇ、厘」

「なんだ」


鼻腔を潜る、人工的な華々しい香り。嗅ぎ入れた瞬間、しまった、と眉を顰めた。


風呂上り。露わになった白いうなじ。首筋にしたる滴の残像。横目に捉えられたすべてが、心の臓と理性を抉る。


「厘は、欲しいものないの?」


おまけに柔く小首を傾げるなど、追い打ちでしかない。厘は傍に寄った娘に気取られないよう、淡白に「ないな」と答えた。


「でも……私だけ着付けしてもらうのも、」

「俺は———あぁ。あいつもだが、すでに貰っているだろう。水筒を」

「そう、だけど」


煮え切らない、というより、萎れている。岬は肩と視線を微かに落とした。


……仕方ない。


「それなら、存分に水をくれ」


どうやら俺は、落ちている岬を見るのが苦手らしい。厘は自分の(さが)に呆れながら、息と共に放った。


「お水?」

「ああ。出掛けていた分、今は特に欲している」

「……うん、分かった」


なにかを呑み込みながら、しかし有りっ丈の笑顔を見舞う岬。これだから、調子が狂う。