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数分前まで見上げていたモミの木が、いまは視線の下で点っている。岬は不規則に揺れる小さな箱の中で、白い息を吐いた。


「コースターより随分遅い乗り物だな」

「ゆっくり、外の景色を眺めるための乗り物だからね」


正面で腕を組みながら、少し退屈そうな厘。対して岬は、二人だけの空間に高揚と緊張を隠せないでいた。


夜景を一望できる解放感と、数分間外へは出られない閉塞感が交互に訪れる空間。“観覧車” と呼ぶのだと教えたとき、厘は「車の要素はどこにある」と首を傾げていた。それが、ちょっとだけ可笑しかった。


「好きなのか」


ドクン。窓に張り付く岬の心臓は、唐突な一言に跳ね上がる。


「観覧車」

「え……なんだ……」


そっちか、と胸を撫で下ろす。息を整え、頷いた。


「私は好きだよ」

「そうか」


身動きひとつなく放ちながら、厘は散りばめられた光を見下ろす。反射した瞳も、パサリと揺れる白いまつ毛も、ただただ綺麗だ。


岬の視線はいつの間にか、景色ではなくその横顔に釘付けていた。