何が起きているのか。それは、身に覚えのある温もりと力強さが物語る。悪霊の憑依から目を覚ました時、強く、強く抱きしめられた記憶が、脳裏に蘇る。


「勝手に離れるな」


あのときと、よく似ていた。


「り、厘……」

「お前から来たのだろう。それに、」


厘は岬の頭上を宥めながら「ようやく邪魔者が居なくなったんだ」と、微笑む。見えずとも、微笑みは鮮明に(こころ)を走った。そして言われてようやく、月が顔を出したことに気が付いた。


「名前……聞けなかった、ね」


締め付けられる。彼の腕の中で籠る声が、体温を上昇させる。周りの目など、気にする余裕もなかった。分かるのは片耳に触れる冷気と、もう片方に触れる厘の心音だけ。


何よりも窮屈で、何よりも心地良かった。


「相当拗らせていたからな。早々に出て行くのなら願ったりかなったりだ」


それに、お前も我慢していただろう。
加えられた言葉に、岬は目を丸くする。もしかして、ずっと見透かされていたのだろうか。……だから、気に入っていた乗り物に乗らず、歩幅を合わせてくれていたのだろうか。


「辛抱強いのは美点だが、お前は少々度が過ぎる。あまり溜め込むな」


耳元を霞める吐息に、岬の肩はピクリと跳ねる。厘は気づきながら笑みを溢し、再び体を抱き寄せた。優しく、包み込むように。


こんなの、好きになるに決まっている。……きっと、誰も制御なんて出来ない。一番敬愛していた母にも感じたことのなかった感情。抱いたのは “独占欲” だった。


「厘……その、行きたい場所があるんだけど」

「ん、どこだ」

「あのね、」