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「岬。この木には妙な実がついているな」
「あ、違うよ。これね、クリスマスツリーって言って……」
「ああ。なんだか今日はよく耳にするな。そのクリスマスという単語を」
園内の中心に佇む背の高いモミの木。実にしては輝かしく、形の整ったそれを厘は神妙に見つめて言った。
そういえば、我が家のクリスマスツリーは手のひらサイズだったっけ。小さなツリーをキャンドルライトに灯した風景と、それをうっとりと眺める母の横顔を岬は思い浮かべた。
『クリスマスも知らねぇで女と歩いてたのかぁ?この時期に』
思い出に浸る間、中の声は厘を嘲笑した。
「なんだ、悪いか」
『そんなもん、女に聞けよ。俺は嫌いだからドーーだっていいね!』
どうだっていい。わざとらしく強調した中の声に、岬は再び顔を歪める。やはり、この霊魂とは相性が良くないらしい。声を荒げられると、ピリピリと頭痛が走った。
「……岬。クリスマスとは一体なんだ」
それでも厘の声が被されば、作り笑いなど容易かった。
「本来はイエスキリスト生誕のお祝い、そのお祭り事なんだって。12月といえばクリスマス、って言えるほど日本中の街も着飾り始めて、きっと祝福の準備をしてるの。だから、私は好きだなぁ……クリスマス」