「岬。日没まであとどのくらいだ」
「今が二時だから……あと、三時間くらいかな」
岬が答えると、厘は「そうか」とほくそ笑む。彼も同じ考えが過っているのだろう、と確信する。
———今日は、満月だった。
意志に関わらず、霊魂が離れざるを得ない夜が残り数時間で訪れる。満月を恋しく思うのは久しぶりだった。
『何だ、気持ちわりぃ』
「ああ、なんでもない。今日が今日で良かったと安堵しているだけだ」
『はぁ……?ワケわかんねぇ』
「だろうなぁ。男女の空気さえまともに読めない、その稚拙な頭では」
『……なんだァ?何か言ったか。はっきり物を言え』
「いいや、なんでもない」
相手に聞こえないよう呟いたのは、岬の中で暴走するのを防ぐため。その配慮は彼らしいけれど、文句を垂れない、という選択肢を選ばないところも彼らしい。岬は密かに苦笑した。
「さあ岬、次はどこへ行く。体調はもう良いのか?」
「うん、平気だよ。どうしようか」
『おい待て、俺がいるのにイチャつくんじゃねぇぞ』
「妙に突っかかるな。お前、さてはモテないだろう」
『うっ、るせぇ……俺が生きてたらお前なんてなァ……』