『お前は何者だ』

「何、と言われても……私は、」

『あぁん!? もっとデケェ声で喋りやがれ!』


キィーンッ———。脳内へ電流が走るような衝撃に、岬はたまらず額を押さえる。内側の神経が鋭い刃に掻かれ、俯いた。


「岬」


痛い、痛い。

そう目を瞑る寸前、額に宿る厘のぬくもり。傍から見れば、熱を診ているかのような仕草だが、実際は違う。厘は岬の頭上に睨みを利かせ、「黙れ」と霊魂を鎮めようとしていた。


……暖かい。


「大丈夫だよ、厘。私は大丈夫」


自分の手を厘のそれに重ねた後、「あのね。貴方は、私に憑依しているんです」と岬は歯切れよく放った。周りの喧騒にかき消されないよう、はっきりと。


『……憑依だと?』


やはり、解っていなかったのだろう。想定外の状況に驚いたのか、先ほどよりもいくらか鋭さの抜けた声。どうやら、厘の形相もよく効いているようだった。


「もし不本意だったら、ごめんなさい」

「……」


厘は、何かを逡巡する様子でこちらを見据える。彼の言わんとしていることに、岬にも思い当たる節があった。


これまで憑依した霊魂には、必ず“憑く”という意志があって、“憑いてしまった”パターンはこれが初めて。早妃の悪霊憑依に続いて、特例と言えるケースに違いなかったからだ。だがしかし、幸いにも今日は———