『あーあー、なんだ?結局リア充しかいねぇじゃねーか』 

「え……」


———だからこそ、内側から久しく声が響いた時、胸を撫で下ろしてしまった。対照に、厘は隣で「……頗る悪いタイミングだ」と眉を顰めた。


『クリスマス前ってのは本当に、チャラチャラとしてやがる』

「五月蝿い。少し黙ったらどうだ」


ドスの効いた声が響く。聞き慣れたモノとは違う、しかし波長は確実に厘の声。向けられている相手は撞いている霊魂だ、と分かっているのに、微かに肩が震えた。厘を本気で怒らせないようにしなければ、と先程までとは違う意味でドキドキした。


『あぁ?なんだお前……俺が視えんのか?』


しかし、中の声も負けず劣らず。少し掠れた野太い声で、口調はどちらかというと銀杏の庵に近い。


「視えるとも。それすら分からないとは……さては愚図か、お前」


腕を組みながら、嘲笑(わら)う厘。無意識に感情を吐露したとき、こちらに向けられていた表情とは打って変わっていた。


『はぁ?何言ってんだ。つーかおい、オマエ!女!』

「……えっ、あ、はいっ」


呼ばれた反動で、凭れた背筋がピンと伸びる。乗り物酔いが遠い昔に感じられるほど、体はよく火照っていた。