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声をあげて笑う厘、なんて、都市伝説よりも伝説に近しいと思っていた。


「ハハハッ、やはり面白い。痛快だな。よし、もう一度乗るぞ」

「う、厘ー……」


四度。ジェットコースターだけを乗り回し、これで四度目になる。蛇のようだ、と眉を寄せていたはずのアトラクションを、厘は偉く気に入ったらしい。声を上げて笑う姿なんて、初めて見た。


「どうした、体調が優れないか」


可愛いなぁ、と浸る反面、岬の三半規管は限界に達しようとしていた。


「ごめんね。……少しだけ、座ってもいいかな」


厘の手を借り、すり寄るようにベンチへ腰掛ける。

……せっかく楽しんでくれているのに、情けない。岬はぐったり背を(もた)れながら、息を吐いた。


「水、飲むか」

「うん。……あ、あっちに自動はんば、」


ポトポトポト───。
言い掛けた直後、横で注がれる音に岬は目を丸くする。厘が手にしたのは、街で買ったプレゼント。彼の白髪のように、淵まで白く彩られた水筒だった。


「ほら」

「ありがとう」


使い慣れた様子で差し出された、そのコップを受け取る。
一体、どこに仕舞っていたのだろう。もしかして、ずっと懐に入れて持ち歩いてくれているとか……さすがに、自惚れすぎかな。


岬は冷たい水を含みながら、期待を寄せた。