「そうだな。試してみるのも悪くない」
そして案の定、その表情は『満更ではない』と読み取れた。
「じゃあ行こっか」
「ああ。こっちみたいだな」
素直でない言い回しも、たまに見せる眉を下げた微笑みも、甘さを与える唇も……全部、大好き。
心の内で、彼の背に呟いた瞬間、白髪がハラリと揺れて振り返る。肩が跳ねると同時、彼は「人波に呑まれるぞ」と、岬の手を引いた。心を読まれたわけではない、と胸を撫で下ろしながら、しかし伝う手の感触に、また鼓動を逸らせた。
「みて。あのカップル可愛い」
「えぇ?もうすぐクリスマスなのに和装だよ?」
「うん。でもさぁ、可愛いじゃん」
───厘以外は何もない。
擦れる葉の鳴き声、雑多な機械音、ファンファーレに喧騒も、全てが彼を引き立てる。故に、周りが「可愛い」と二人を微笑む訳など、知る由もなかった。
岬の手を引く厘の頬は、同じ薄紅色に染まっていた。