「あの……」


切り出すと、男は呆れた様子で視線を配る。怖くはない。


「今度はなんだ?」

「あなたは、本当にリリィなの?」


単刀直入に唇を割った。見ず知らずの(とても怪しい)男が作った料理を食し、追い出しもせず留めている状況からして常軌を逸していたが、それを重ね塗るように岬は逸した。


人間でない物が、人間に化けている———事実であれば、信じられるのは自分だけではないのだろうか。岬は喉を上下に揺らす。


「そう言っているだろう」


吐息とともに零しながら、彼はようやく食材を含む。豚汁以外、料理ではなく丸々食材の姿だった。こちらにはゴマと和えられているホウレンソウが、スッピンで彼の口内を潜っていく。生で噛みしめられる音は、とても穏やかだった。


「生野菜って、苦くない……?」

「ああ。生身の人間と違って花には水分が必至だからな。炒めると飛ぶだろう。それに、生の方が美味い」


いまの姿はまったく、お花のようには見えないけれど。


「えっと……つまり、人間の姿に化けている、ってこと?」


核心をついた。


「分かりやすく言えばそうだな。もともと、俺はただの花ではないが」


ゴク、ゴク、ゴク。コップを片手に「ぬるいな」と顔をしかめたあとで、男は言った。