───『岬。あなたとリリィなら、きっと乗り越えられる。私はいつでも見守っているからね』


朗らかに微笑む母が纏っていたのは、白を基調とした着物。写真でしか目にしたことのない和装姿は、岬の脳裏に深く刻まれていた。夢の中に現れるほど、鮮明に刻まれていた。


───『大丈夫。なんたって、岬の強さと愛の深さはお母さん譲りだし』


柔らかく朗らかな声。大好きだった波長。ずっとその夢に浸っていたい。……きっと少し前の私なら、そう願っていたに違いない。でも今は、目覚めて会いたい人がいる。彼ら(・・)の存在がどれほど強い引力か、岬は意識の奥底で痛感していた。


どんな困難があっても、絶対に守りたい。もう、失いたくない。この居場所だけは、絶対に。



「岬。寝室へ運ぶぞ」


低く、心地の良い耳触り。厚みのある厘の声が、薄い意識を優しく撫でる。岬の身体は軽々と抱え上げられた。


「んん……」

「ん。どうした」


母の残像が、厘へと移り変わる。彼はゆったり眉を下げ、(うな)る岬に「仕方ないな」と微笑んだ。


「俺はここにいるぞ」


ベッドの上で、優しく手を握りながら。