先日。厘にきつく抱き締められた後、岬は半分憑依とは別の形態を知った。


“完全憑依” ───安堵に満ちた厘の表情を前に、その事実を打ち明かされた。どれも、初めて聴く内容で戸惑った。


厘によると、街で意識を失ったと同時に “早妃” と名乗る悪霊に件の完全憑依を許してしまったのだとか。加えて、これまでにも定期的に訪れていた酷い眠気の原因は、新月の夜に霊が身体を操っていたからだ、と知らされた。


「でも、今回は……」

「ああ。新月でもないのに乗っ取られたのは、早妃がより強い霊力を持つ悪霊だったからだ」


憑いていた汐織を退けることができたのも、悪霊ゆえ───厘は眉を下げながらそう言った。汐織とは気が合うようだったから、無念だったのだろう。


私も、ちゃんと伝えたかった。


───『何もできなくてごめん、岬』


何も出来なかったなんて言わないで……背中を押してくれてありがとう。そう伝える前に、彼はこの身を離れてしまった。心の奥に触れた、彼の穏やかで温かい言葉の数々が、鼻先へ電流を下ろした。


「早妃は……悪霊って、どんな霊だった?」


涙を堪えながら、悔いを残しながら尋ねると、厘は決まって苦い顔をした。ばつが悪そうに表情を歪めた。


「……普通だよ。単に、霊力が強いだけだ」


僅かに、鈍色の目が泳ぐ。直観には優れていないと自覚はあるものの、隠し事があるとすぐに分かった。それでも岬は、「そっか」と目を細めた。