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「う……」


うめき声。早妃の操る(・・)ものではない声帯から零れ落ちる。岬の身体が脱力したのは、重ねてからたった数秒後のことだった。


「やっとか」


厘は首と腰に腕を添えて、項垂れた岬を抱える。離した唇を再び重ねる。今や瞳も、本来の色を取り戻しているはずだ、と瞳を見ぬままに確信した。


しかし早く注がなければならない。今度は、いつも通り精気を───。



鈴蘭には毒がある。
庵はその毒を利用して夢魔を追い出せ、と提言した。痛み慣れをしていない霊にはうってつけ、自ら出るように仕向けることができる。


無論、厘自身にもその案は浮かんでいた。


しかし、背を押されるまでは踏み切れなかった。毒を利用する方法の最低条件は“岬の身体を毒に侵すこと”だったからだ。


「岬……」


操りを解かれた人形のように脱力する、愛おしい身体。締め付けながら、厘は唇に神経を注ぐ。


鈴蘭に含まれるコンバラトキシンは、猛毒だった。

解毒には、通常の倍以上の精気を注ぐしか方法はない。延いて、今回は悪霊の完全憑依であったため、倍々以上の精気を捧げる必要があった。───毒が、全身へ(まわ)る前に。