夢魔が別称、淫魔と呼ばれるのも納得がいく。ゆったり弧を描く口角を、厘は鼻で笑った。


「殊勝にも、俺は正攻法が好きなんでな。それに、いくらその声で喘がれたって、中身(・・)がお前では意味がない」



———ときに悪霊、俺に出される覚悟はできているか?



続けてほくそ笑んだ厘に、早妃は初めて顔を歪める。霊魂の力が強く、悪魔の性質まで持ち合わせた彼女は、いままで余裕に呆けていたのだろう。


だからこそ、付け入る隙ができた。


———『お前、鈴蘭だよな』


庵が放った言葉を思い返し、厘は大きく息を吸う。ソレ(・・)を放出するのは何時《いつ》ぶりだろうか。記憶には遠い。


「な、に……?」


異変を覚えた早妃は、辿々しく言葉を紡ぐ。誘惑にかまけていたせいか、逃げる方は格段下手らしい。


「早く岬から出ろ。この阿婆擦(あばず)れ」


厘は唇を寄せながら、瞳を鈍色から褐色へと変化させる。


「ンっ!?」


そして、都合よく半開きであった唇にキスを落とした。


———岬。少し荒療治だが許せ。

心の内で唱えながら、ジタバタと暴れる身体を押さえながら、厘はソレ(・・)を幾度も注いだ。