「今がチャンスだと思わない?」
「……チャンス?」
「うん」
彼女は厘の手を自分のそれに絡めて掬い取る。枷に縛られ血行を妨げていたせいか、体温は異様に低い。やはり『暑い』と言ったのは出任せのようだ。
「だってほら。岬に懸想している。そうでしょう?」
文脈に沿わない物言い。それに懸想している、と言ったか。……安直にもほどがある。
厘は正面から体をすり寄せる彼女を退けて言った。
「生ぬるい」
「……え?」
「懸想———なんて領域では、もう到底補えないな」
クイッ———。
正面に捉えた彼女の顎を持ち上げる。「んっ、」と鼻から漏れる吐息も、今回ばかりは意図的ではない。証拠に、捉えた瞳は大きく見開いた。
「っ、それほど想っているなら尚更……今を逃さない方がいいんじゃない?」
しかし、厄介者の口は容易には減らない。多少の動揺は見てとれるが、それ以上に彼女は今の状況を愉しんでいるようだった。
「だって、今ならどこに触れても岬の記憶には残らないんだから。……もしかして、コレってちょうど、手を出そうとしているところ?」