横に投げ出された脚に視線を落とす。そうでもしなければ、これまでの気遣いが水の泡だ。もうすでに、生きた心地はしていないが。


「だってこの身体、見慣れているものだと思ったから」

「……は」


ジャラ———。
足首に施した枷が、部屋の中心で静かに動く。


「一つ屋根の下で暮らしているのに、随分と気を回していたのね。全くそそられない、なんて言っていたのに」


そして、彼女は心境を見透かした。悪霊にも関わらず人の、否、あやかしの機微にも敏感らしい。


「岬が気にするからな。小娘と言えど、年頃には違いない」


自分も、あやかしの割に建前が上手い。厘は心の内で苦笑した。


「ふーん……つまらないの」

「詰まる事があってたまるか」


言いながら厘はしゃがみ、枷を外していく。そして、はだけた服をしゃんと着せ、露わになっていた肌を覆い隠した。肌には指一本触れないよう、気を張った。呼吸を止めて少しでも五感を塞いだことが、功を奏したらしい。


そうでもしなければ———……


「ねぇ、でもさぁ厘」


雑念を遮る甘美な声。みさ緒の時とも、本人の時とも違った波長。岬の声帯は幅が広い。

自由になった足で詰め寄る早妃を横目に、厘は感心していた。