「お前、またなんかキレてんだろ」
「……キレてなどいない」
庵からの指摘に視線を背ける。存外、顔に思惑が出やすいのか、と口元を覆った。
「アッソ。まぁどうでもいいけど、……この後は絶対、上手くやれよな」
言われるまでもない———返答は固唾に飲み込まれる。アパートの下、庵は朝と同じように銀杏の葉を口に当て、音を響かせる。
午後二時、術の解除。
「庵、お前は念のため離れておけよ」
「ふん、偉そうに。分かってるっつーの」
「そうか。じゃあ、また明日」
まさか、庵にこんなセリフを吐くことになるとは。存外、腰が引けているのか……情けない。
厘は結んだ唇から笑みを零し、早妃の待つ1DKへ向かった。