「……っ、おいしい……!」
「当たり前だ」
一番に含んだのは豚汁。味噌のコクも、干からびた喉を溶かすような温かさも、あまりに久しい。それに、母の豚汁とよく似ていて、不覚にも視界を滲ませる。キャベツとネギをふんだんに使った母の豚汁、そのものだった。
「あの……食材ってどこから……」
潤った喉から、控えめに声を通す。
「買ってきた。買い物くらいできるぞ俺は」
「その格好で……?」
「……何か不満があるのか」
未だ箸を持たず腕を組んだままの男は、ギロリと岬を睨んだ。鋭利な矢を彷彿とさせるほどの、眼力だった。しかし、人と長く目を合わせるのが久しぶりで、岬の心は弾んだ。無意識に、顔を綻ばせるほどに。
「何がおかしい」
「え?」
「にやけているだろう。俺の見てくれに、おかしなところでもあるのか」
寄せられた男の眉間には、皺が縦に刻まれていた。その下で、白く長いまつ毛が、これまた鋭利に尖っているのが分かる。
あれほど沈んでいたのに、乾ききっていたのに。口角って、鈍らないのかな……。
岬は頬を押さえながら視線を落とす。最後に笑った記憶があるのは、母親が倒れるよりも前の事だった。
「おかしくなんて……むしろ綺麗です、とても」
「そうか。ならいい」
鋭いところは数多、それでも隙間と味には優しさが垣間見える。不思議、と内側でつぶやきながら、和え物を頬張った。