——— “ 私が、あの子の傍にいられなくなるときが来たら。きっとあなたが護ってあげてね、リリィ ”
記憶に残された声は艶やかで、あるいは陽だまりのようでもあった。朽ち果てる寸前だった本体は、彼女の声に何度癒されただろう。何度、同じ言葉を繰り返されようと構わなかった。……ただ、その渾名だけはどうにかならないものか。
厘は密かに願っていた。願うほど、平和な日々だった。
『リリィにいってきます、って言ってきた?』
『あっ……おはよう、リリィ。いってきます』
救済の手を伸ばした二人の、愛おしい声。リリィも甘んじて受け入れながら、心穏やかに俯瞰していた。
『お母さん……?』
消え入るような言葉を最後に聴こえなくなった、あの夏までは。