テレビのニュースでは、今日の夕方、雪が降ったという話題で持ちきりだった。
「本日、午後六時半ごろ……。雪が降るという現象が……。雪は、一分ほどでやみましたが……、気象庁では……」
熊さんの顔型クッションを抱きかかえながら、ソファに座りテレビを見ていた。私の手には、スマホが握られている。
『ケンちゃん、暴走したのね』と、大笑いのスタンプと共に、メッセージが届いていた。メッセージの差出人は、もちろんお義母さまだ。
今日のことの顛末は、後日、お義母さまとのティータイムで話すことになっている。
まだ、あやかしについてよくわからない私。お義母さまとも、良い関係を築けている。と思っているのは私だけではないはず。
「では、次のニュースです……」
ぱっと画面が切り替わって、よく見る国会の映像に切り替わった。
「あっ……」
私は見つけてしまった。テレビの画面の向こう側にいる、狐姿の元カレを。なんか、偉い人の肩の上に乗っているのだ。それはもう、ちょこんと可愛らしく。
「……ホールディングスの黒須会長は……」
くろす、黒須? まさかね。
「健太郎さん。狐、狐の佐藤がいました。あ、佐藤の狐だ」
「なんだ、それは」
キッチンでお茶を淹れていた健太郎さんは、二つのマグカップを持って私のところへやってきた。
目元を緩めていた健太郎さんの顔が、ニュースを見た瞬間に引き締まったことに、もちろん私も気が付いた。
「ほら。エアコンの風、冷たくないか? あまり身体を冷やさないように」
「それ。雪男の健太郎さんに言われても、説得力ないんですけどね」
マグカップを受け取り、ふうふうと息を吹き付ける。
「そうだ、健太郎さん。お義母さまも、あいつも。私にも力があるって言ってたんですけど」
「そうだな」
健太郎さんが私の隣に座ると、彼の重みによってソファが沈んだ。
「他の人よりは、霊力が高い。だから、子を授かることができたんだと思う」
「てことは。やはり、こう。練習すれば、健太郎さんみたいに、その力を使うことはできるんですかね?」
私の言葉に、健太郎さんは大きく目を見開いた。
「どうしたんだ? 急に」
「ん、と……。今日のようなことが、これからも起こるのかなと思うと。やはり母親としてはこの子を守ってあげたいと言いますか……。まあ、そんな感じです」
急にエアコンの設定が変わったのかと思えるくらい、部屋の温度が下がった。
「ああ、すまない。寒かったか?」
お義母さまが言うには、感情が昂ったりすると、健太郎さんの霊力が暴走するらしい。今日の真夏の雪も、健太郎さんが暴走した結果なのだ。
「いえ、一瞬でしたし。それに、エアコンの風に当たらないようにって、完全防備ですからね」
足首を冷やさないように、夏でも長ズボンとゆるっとした靴下。そして、上も薄いカーディガンを羽織っている。
「そうだな。タマのそういう前向きな考えは嫌いじゃない。適当な人材を見繕っておくよ」
「あれ? 健太郎さんが教えてくれるんじゃないんですか?」
「もちろん、俺も付き合うが。君は人間だからね。指導者としては人間の方が適している。もちろん、女性だから安心しなさい」
私の指導者が女性で安心するのは、健太郎さんの方なんじゃないかな、と思うんだけど。
それはあえて口にしない。
「ありがとうございます。まだ、あやかしについてはよくわからないけれど。とにかく、この子は大事なので」
私が微笑んで、健太郎さんを見上げると、彼も温かな笑みを浮かべ、そして私に口づけを落とした。
【完】
「本日、午後六時半ごろ……。雪が降るという現象が……。雪は、一分ほどでやみましたが……、気象庁では……」
熊さんの顔型クッションを抱きかかえながら、ソファに座りテレビを見ていた。私の手には、スマホが握られている。
『ケンちゃん、暴走したのね』と、大笑いのスタンプと共に、メッセージが届いていた。メッセージの差出人は、もちろんお義母さまだ。
今日のことの顛末は、後日、お義母さまとのティータイムで話すことになっている。
まだ、あやかしについてよくわからない私。お義母さまとも、良い関係を築けている。と思っているのは私だけではないはず。
「では、次のニュースです……」
ぱっと画面が切り替わって、よく見る国会の映像に切り替わった。
「あっ……」
私は見つけてしまった。テレビの画面の向こう側にいる、狐姿の元カレを。なんか、偉い人の肩の上に乗っているのだ。それはもう、ちょこんと可愛らしく。
「……ホールディングスの黒須会長は……」
くろす、黒須? まさかね。
「健太郎さん。狐、狐の佐藤がいました。あ、佐藤の狐だ」
「なんだ、それは」
キッチンでお茶を淹れていた健太郎さんは、二つのマグカップを持って私のところへやってきた。
目元を緩めていた健太郎さんの顔が、ニュースを見た瞬間に引き締まったことに、もちろん私も気が付いた。
「ほら。エアコンの風、冷たくないか? あまり身体を冷やさないように」
「それ。雪男の健太郎さんに言われても、説得力ないんですけどね」
マグカップを受け取り、ふうふうと息を吹き付ける。
「そうだ、健太郎さん。お義母さまも、あいつも。私にも力があるって言ってたんですけど」
「そうだな」
健太郎さんが私の隣に座ると、彼の重みによってソファが沈んだ。
「他の人よりは、霊力が高い。だから、子を授かることができたんだと思う」
「てことは。やはり、こう。練習すれば、健太郎さんみたいに、その力を使うことはできるんですかね?」
私の言葉に、健太郎さんは大きく目を見開いた。
「どうしたんだ? 急に」
「ん、と……。今日のようなことが、これからも起こるのかなと思うと。やはり母親としてはこの子を守ってあげたいと言いますか……。まあ、そんな感じです」
急にエアコンの設定が変わったのかと思えるくらい、部屋の温度が下がった。
「ああ、すまない。寒かったか?」
お義母さまが言うには、感情が昂ったりすると、健太郎さんの霊力が暴走するらしい。今日の真夏の雪も、健太郎さんが暴走した結果なのだ。
「いえ、一瞬でしたし。それに、エアコンの風に当たらないようにって、完全防備ですからね」
足首を冷やさないように、夏でも長ズボンとゆるっとした靴下。そして、上も薄いカーディガンを羽織っている。
「そうだな。タマのそういう前向きな考えは嫌いじゃない。適当な人材を見繕っておくよ」
「あれ? 健太郎さんが教えてくれるんじゃないんですか?」
「もちろん、俺も付き合うが。君は人間だからね。指導者としては人間の方が適している。もちろん、女性だから安心しなさい」
私の指導者が女性で安心するのは、健太郎さんの方なんじゃないかな、と思うんだけど。
それはあえて口にしない。
「ありがとうございます。まだ、あやかしについてはよくわからないけれど。とにかく、この子は大事なので」
私が微笑んで、健太郎さんを見上げると、彼も温かな笑みを浮かべ、そして私に口づけを落とした。
【完】