「自分アピールみたいな事をするつもりはないけど、アタシ、モテるの」

落ち着いた瀬戸さんから僕達は話を聞く事になった。

「自慢じゃねぇか」
「大事な話なんだからちゃんと聞いて」
「自慢話だったら右から左へ聞き流す」

新城を睨みながら瀬戸さんは話し始める。

瀬戸さんは(自分でも言ったけど)美人で学年問わず多くの男性から好意を寄せられ、毎日のように告白を受けている。
しかし、彼女は恋愛やらそういうものに興味がなく、すべて断っているという。
異変は人気者の男子生徒の告白を断ってから起こったという。

「色んな男子から告白されるから断っていて、二週間前に人気者だっていう男子を断ってから変な奴が現れるようになったの。ソイツは全身真っ赤でみるからに不審者みたいな奴だった」
「確かに変な奴だ」
「最初はただの不審者かと思っていたんだけど、気付いたら視界の片隅にいつも現れて、怖くて警察とかに相談したけど、役に立たなくて……その話を工藤先生に伝えたらアンタに相談すればいいって」

そこで瀬戸さんはバンと机を叩く。

「アンタなら本当に解決してくれるのよね?」
「……そうだな。引き受ける前に一つ確認だ」

指を一本出して新城は瀬戸さんをみる。

「アンタの望む解決というのはソイツが近づかない事か、それとも、ソイツを完全に祓う事なのか?」
「アタシの目の前に姿を現さない事、それが望み」
「わかった」

新城が頷いたという事は依頼を引き受けたという事だ。

「二日後の夕方にこの教室へ来てくれ」
「二日後!?すぐになんとかしてくれないの!?」
「なんとかしてやりたいが準備が必要だ」
「準備?今みたいに変な札を使ってなんとかできないの?」
「無理だ。俺が今払ったのは雑魚も雑魚だ。アンタのいう特徴の奴が俺の想像している通りの奴なら準備がいる」
「二日後にここへくればなんとかしてくれるのよね?」
「あぁ」
「その言葉が嘘だったら許さないから」

立ち上がった瀬戸さんはそういうと教室を出ていく。

「おい、雲川」
「なに?」
「お前、昼休みや休憩時間、アイツの様子を確認しろ」
「瀬戸さんの?」
「そうだ。一日中様子を見る必要はない。昼休み、休憩時間、アイツが何をしているのか調べてほしい」
「それは怪異を解決するため?調べないと瀬戸さんの怪異を解決することはできないの?」
「なしでも解決する方法はあるが……彼女の言っていた相手が俺の想像している相手なら必要になるだろうな……最悪、助っ人が必要になる」
「そこまで危険な相手なの?」
「確証がないからはっきり言えない。まずは一日、お前の目から見てわかったことを教えろ」

いつものふざけた態度じゃない。
片目越しだけど、彼の目は真剣だった。
これは本気で挑まないといけないんだなぁと思考を切り替えることにする。

「わかった」







新城に言われた翌日。
休み時間に僕は瀬戸さんがいる教室へ向かう。
挨拶の時にC組と言っていたからそこへ行けばわかるかな?
教室が見えてきたのでちらりと廊下から中の様子を伺う。

「あれ、いない?」

彼女の姿が見えない。
お手洗いかどこかだろうか?
そうなると次の休み時間に様子でも。

「雲川?」
「芥川君、やぁ」
「珍しいな。こちらの教室へ戻ってくるのか?」
「ううん、人を探していて。そうだ。瀬戸ユウリさんって知っている?」

僕が尋ねると芥川君は驚いた表情でこちらをみる。

「お前、瀬戸ユウリに興味があるのか?それならやめておくといい」
「え?あぁ、いや、そういうわけじゃなくて」
「とにかく、氷の女王と呼ばれている瀬戸ユウリの事は放っておいた方がいい。今も、男子生徒が彼女に告白をして振られている頃だろう」
「たくさん告白を受けているとは聞いていたけど、短い休み時間の間に告白してくる男子がいるの?」

告白は意中の相手に思いを告げるもので、数分単位で終われるものだろうか?

「特別教室にいる雲川は知らないかもしれないが、瀬戸ユウリは一年問わず、二年、三年で知らぬ者はいないといわれるほどの美少女だ」
「そう、みたいだね」

本人と話をしたし、自らが言っていたなぁ。

「実際、彼女が入学してからというものの、告白してくる男子は後絶たない。一年生組は全滅して、二年生と三年生の全滅も残りわずかと聞いている」
「……情報通だね?もしかして、芥川君も告白した側?」
「いいや、俺は彼女がいるからカウントされない側」
「そういう事ですか……って、芥川君、彼女いるの!?」
「まぁね」

そんなことを話しているとチャイムが鳴り出す。

「教室へ戻らないと。じゃあ、またな」
「うん」

芥川君と別れて特別教室へ戻る。
教室に入ると新城はいない。
今朝から新城はやることがあると言って、戻っていなかった。
おそらく瀬戸さんの問題を解決するための準備。
携帯端末を開いて、芥川君から聞いた情報を新城へ送信する。
昼休みに瀬戸さんが見つかるといいんだけど、芥川君の話が事実だとしたら告白しようと男子が突撃しているかもしれない。
なんとか、話だけでもできるといいんだけど。





















新城は学校の外に停車している車に乗り込む。

「学生は勉強が本文だろう?」

運転席にいる長谷川に新城は顔を顰める。

「この時間を指定したのはそっちの筈だが?」
「もう少し相手と話をする努力が必要なんじゃないか?まぁ、いいか」

長谷川は怪異が引き起こす事件を専門とする警察が設立した部署の人間。
新城のような祓い屋に情報を提供したり、通報を受けたら怪異を引き起こした者達を回収する役目を負っている。

「これが依頼のものだ」

長谷川は茶封筒を差し出す。
受け取った新城は中身を見る。

「わかっていると思うが外に情報を漏らすなよ?一応、警察の資料なんだからな」
「釘刺さなくても理解している。それよりも予想した通りの内容だな」

封筒に資料を戻して長谷川へ返す。

「その内容、俺も目を通したけど、そんなにヤバイ相手なの?」
「ヤバイ、可能なら関りになりたくもない。加えてそんな奴を狙って怪異がやってきている」


――もう、手遅れだけどな、と心の中で新城は呟く。


「うへぇ、そんなものがこの町にいるの?俺、死ぬかも」

長谷川は新城と違って怪異に対抗する能力を持たない。
術が施された道具を所持しないと怪異すら見れない人間だ。

「そうだな。こっちから連絡が来るまで余計なことはしない方がいい」
「新城ちゃんの言う通りにしておくわ。まだ死にたくないし、彼女作りたいし、そういや青春真っ盛りの高校生、恋愛とかそういう話はないの?」
「どうでもいい。資料は返す」
「つれないなぁ、普通、男の子なら恋愛とかそういう事に興味を持つだろう?」

フンと鼻で笑う。

「俺が普通にみえるか?みえないだろ、この話は終わり、じゃあな」

車から降りて学校へ戻るための道を歩く新城。
ふと、立ち止まった新城は右目に触れる。
長い髪に隠れて、さらに眼帯で隠されている右目。

「こんなのを付けた奴が青春ね。アホらしい」

長谷川の言葉を思い出して鼻で笑う。
祓い屋という職業は怪異と直接戦うこともある危険な職業だ。
学生という身分もある為、受けられる仕事は限られているものの、怪異というものに危険はつきもの。
いついかなる時に命を落とすのかわからない、そんな自分に青春など、ましてや恋愛など出来るわけがない。

「いや、したくないだけだ」

あの時の事を思い出さないようにするべく、目の前の仕事、片付けなければならない問題へ意識を向ける。

「アイツがどこまで情報収集できるか……まぁ、望み薄かもしれんが、俺は俺で準備をすると」

新城は舌打ちする。

「想定よりも早いな」

雲川につけている護符に反応があった。
どうやら彼は厄介ごと、しかも、怪異絡みの何かに巻き込まれている。
急ぎ足で彼が怪異へ巻き込まれている場所に歩みを向けた。
護符のおかげで場所はばっちりだ。