真っ暗な空間の中、冷たいコンクリートが頬にあたり、体から徐々に熱を奪っていた。
 あれから、どのくらいの時間が経っただろうか。自分はこれから、どうなるのだろうか。
 ……どうにかしてここから出ないと。でも、一体どうやって……。今、ここがどこなのかも分からない。
 真理愛と別れた後、青星は一浪に気を失わせら、ここまで連れて来られた。目覚めた時には、この暗闇の中で、一人だった。
 幸いにも、手と足は拘束されていない。隙をつければここから脱出、出来るかもしれない。せめて、この暗闇さえどうにかなれば……。
 闇が、覆いつくそうとして、不安と孤独を感じさせた。
 ……本当に、出来るだろうか。ここから出る事なんて、あいつから、逃れる事なんて。
 ――青星。
 優しく俺の名を呼ぶ、あいつの声が血液を通して、体全体に駆け巡る。
 梢子……。
 帰るんだ。帰らないといけないんだ。あいつの居る家に。俺は生きないといけない。
 立ち上がり、手から分かる感覚を頼りに、壁伝いに歩く。手で触れた感じ、どうやら壁もコンクリート出来ているようだった。
 カーテンはついていない……やっぱり、窓がないんだ。
 拳を作り、壁を二回ほど叩いた。
 ――コンッコンッ。
 すると、低く詰まったような音がした。
 今度は、空振りしないように意識を集中させ、手に平を合わせ叩く。
 ――パンッパンッ。
 すると音が壁に跳ね返った。
 次に壁伝いにゆっくりと歩く。出来るだけ正確な広さを知る為、自分の両足を定規代わりにした。すると何十歩か歩くと、壁に手が触れた。部屋が続く方向に体を九十度回転させ、再び自分の両足を定規代わりにする。そしてまた何十歩か歩くと壁に手が触れた。
 次はドアだ。ドアがどこにあるのか分からないと隙があったとしても逃げ出せない。
 壁を伝いドアを探すと、壁と床と同じ、コンクリート製であろう、ドアが見つかった。試しにドアに耳を当て、耳を澄ませてみたが、何も聞こえなかった。
 なるほど……。
 一度、これまでの事を整理してみよう。
 青星はドアの前から数歩下がり、あぐらをかいた。
 まず、この部屋は防音に優れている。叫んだところで、俺の声は聞こえにくい。窓がないあたり地下だと考えるのが妥当だ。まさに誘拐犯が誘拐の際に選びそうな場所。
 部屋の中が、どれだけの広さがあるのかを確かめるため、縦横、壁から壁までの距離を歩いた時、どちらも同じ数の分だけ進んだ。つまり、正方形型の部屋だと推測する。
 あいつがセキュリティーの整った家を得られるだけの金と権力がない事は、分かっている。だから、高級住宅地区は除外する。
 再会した一浪の姿は、衣服は汚れ、靴もかかとがすり減っていて、身なりが良いとは言えなかった。一浪のように強欲な男は、金を手に入れたら、派手に使うはず。身なりに豪快さがない事で、青星は、一浪が以前と同じ堕落した生活を今も続けているのだとすぐに分かった。何よりも青星を連れ去ったのが何よりもの証拠だ。
 ものすごく山の中に来ているのか、それとも自宅からそう遠く離れていない場所なのか……。
 なんにせよ、こんなところを偶然、見つけたということは考えにくい。あいつは元から俺をここに連れてくる手筈だった。 
 さて、この部屋の事は大体分かった。問題はここからどうするかだ。当たり前だが、俺のスマホや荷物はあいつに取られている。試しにを床を這ってみるも、使えそうなものは何もなかった。
 あいつの方から何かアクションを起こさない限り、今はどうもならない。俺に暴力を振るう事を生きがいとしていたやつだ。必ず俺を殴りに来る。だからその時まで、ただ今は、耐えるんだ。この逃げたくなるような状況から、一人強く耐えるしかない。
 青星は天を見上げた、だがそこには、あの時のような星なんていうたいそれたものは、欠片もなかった。
 ……梢子。俺はここだ――。