部屋で鈴煉が持ってきてくれた本を読んでいると、襖の向こうから「茉結ちゃん」と茉結を呼ぶ裕太の声がした。
「はい」
返事をすると、襖が開き、裕太の姿があった。
「ただいま。茉結ちゃん」
「あかえりなさい。ゆうくん」
早歩きで裕太のところまで行き、目の前に立ったところで「あ」と、茉結は声を出した。
「どうかした?」
「あ、ううん。なんでもない」
「そう? じゃあ、行こうか」
「うん」
目の前に裕太の左手が差し出される。
──なんだか、夫婦みたいなやりとりみたいだったなって思ったのは言わないでおこう……。
熱くなっていく顔を、茉結は隠すように俯いた。
食事の場所は、鈴煉が案内してくれた居間だった。
「わあ……!」
畳の上に置かれたテーブルに並べられているのは、会席料理。
「今日はいつにも増して豪華だね。爺や」
「坊ちゃ……いえ。裕太様が彼の方と再開されたお祝いだそうです」
「ははっ。後で料理長たちにお礼を言わないとだな」
「あ、私も行きたい。こんなに美味しそうな料理を沢山用意してくれたんだもの。お礼の一言は言いに行きたいわ」
目の前に並ぶ料理に、茉結は目を輝かせていた。
「食べようか」
「うん!」
「「いただきます」」
箸を手に取り、まずは、目の前に置かれている前菜を食べる。
「おいしい……!」
「本当?」
「うん。すごく美味しい。いくらでも食べられそう」
「良かった。食欲はあるんだね」
「え?」
「さっき、家のことで泣いてたから心配だったんだ」
裕太の部屋でのことを思い出したと同時に、彼に抱きしめられたことも一緒に思い出して、顔に熱が集まる。
「あ、だ、大丈夫。ゆうくんのおかげで、元気になった、から……」
「うん。良かった」
青い瞳を細め、優しい眼差しで微笑むのはあの頃と変わっていなかった。
食事を終えて、茉結はふたたび裕太に手を引かれて部屋に戻った。
──どの料理も絶品だったなぁ。お刺身は特に美味しかったわ。
「茉結ちゃん」
部屋に入る直前、裕太に声をかけられる。
「なに?」
「明日、一緒に街に出かけない?」
「街って……あやかしの?」
「そう。僕たちが住んでるかくりよを案内しようかと思ったんだけど」
──これって、もしかして……俗に言うデートというもの?
「行きたい!」
「良かったぁ。断られたらどうしようかと思った」
「断るわけないよ」
裕太と一緒に一日を過ごせる。それだけで、茉結は嬉しかった。
「ありがとう。じゃあ、また明日部屋まで迎えに来るよ」
「わかった。おやすみなさい」
「おやすみ」
部屋に戻った茉結は、すぐに入浴して、布団に潜った。
「明日、ゆうくんとお出かけ……」
心臓が先ほどからずっと、ドキドキと脈打っている。
不快ではない。むしろ心地良ささえ感じる。
明日が早く来ることを願いながら、茉結は目を閉じた。