裕太の家の敷地は、予想を遥かに超えていた。

「ゆうくん、これ本当に家?」
「そうだよ」

木造建築の大きすぎる屋敷。そしてそれを囲う、広大すぎる敷地。

家と表すより、屋敷と言った方が正しい気がする。

「ただいま」
「「「おかえりなさいませ。裕太様」」」

屋敷に入ると、十人以上の従者が頭を下げて出迎える。
玄関だけでも、凄い広さがある。
屋敷の中も木や畳で構成されており、昔ながらの日本家屋と見える。

「おや。坊ちゃ……裕太様。そちらのお方は?」

ひとりの初老の男性が、小首を傾げて茉結の方を見る。
おそらく、執事長や侍従長の立場なのだろう。

「僕が話してた子だよ」
「なんとっ! それはそれは!」

裕太の言葉に、男性は強く目を見開いて驚愕の表情をしているが、嬉しそうに見える。
そして周りの従者たちも、ちらちら、とこちらを見ている。

──私のことを知ってる? そんなはずないよね。

気のせいかと、首を振る。

三峯(みつみね)
「はい」

裕太が呼んだのは、茉結よりも背の高い女の子。
肩まで切りそろえた紺色の髪と輝く月のような綺麗な金色の瞳を持った、きりっとした顔立ちをしている。

「彼女を案内してあげて」
「かしこまりました」

彼女は深々と頭を下げる。

「三峯鈴煉(りんね)と申します。よろしくお願い致します」
「あ、えっと、希ノ宮(きのみや)茉結です……」
「三峯は信頼出来る侍女だから、大丈夫だよ。着替えたら、その子に僕の部屋まで案内してもらって」
「うん……」

裕太と離れることに少し不安を抱きながら、茉結は鈴煉について行った。


「こちらが、茉結様にお使いいただくお部屋になります」

案内された部屋は畳部屋で、玄関よりも広い部屋だった。

──畳が、いち、に、さん…………二十!?

ひとりで使うにはあまりに広すぎる部屋に、茉結は困惑する。

「あ、あの、本当に私が使っていいんですか?」
「もちろんでございます。お部屋には浴室と洗面室もございますので、ご自由にお使いください」

部屋の広さだけでも困惑しているのに、お風呂などもついていると言われたら、ますますこんがらがる。

「まずは、お召し物を着替えさせていただきます」

いつの間にか、彼女の手には着物が用意されていた。

「失礼します」

そう言うと、鈴煉は白無垢の帯を緩めた。

「え? あ、あの……」
「ご安心ください。すぐに終わりますので」

その間にも、彼女は着々と丁寧に着物を脱がせていく。

──ま、待って。このままだと、下着だけになっちゃう……!

「あ、あのっ、自分で出来ます!」

すると、鈴煉の手がぴたりと止まる。
あと少しで、下着姿になるところだったのをなんとか防げた。

「そうですか?」

どことなく、しょんぼりとした感じに見えたのは気のせい……だと思う。

「は、はい!」
「……かしこまりました。こちらの着物にお着替ください」
「分かりました」
「では、お部屋の外でお待ちしております」

そう言うと、彼女はそそくさと部屋を出ていった。

ほっ、と胸を撫で下ろす。
いくら同じ女性とはいえ、下着姿を見られるのは、少々恥ずかしい。

──早く着替えよう……。

着物の着方を知っておいて良かったと、少し安堵した。