──懐かしい……。

社の方を眺めながら、幼い頃の思い出に浸る。

「だけど、どうして急に……? それに、私の家からどうやってここまで……」

聞きたいことがありすぎて、上手く言葉がまとまらない。

「茉結ちゃんが、十八になった時に迎えに行くつもりだったんだ」

あの出会いから十数年経ち、茉結は十八歳。
裕太は、茉結より五つ年上なので二十三歳になっている。

「だけど、詳しいことはまた後にしよう。こっちに来て」
「う、うん」

鳥居をくぐり、参道を少し歩いたところで足を止めた。

目の前には、狛犬の石像がある。

「なにかするの? ゆうくん」

裕太はにこ、と微笑むと石像に左手を突っ込んだ。

「えっ!?」

信じられないことに、裕太の左手が石像の中に入ったのだ。

「さ、一緒に入ろう」
「え?」

左手を握られて、裕太の方へ引き寄せられる。

裕太はするりと石像の中へ入る。
怖くて目を瞑るが、痛みがくることはない。

「大丈夫だよ。目を開けて」

そっ、と目を開けると目の前には、大正時代を連想させるような町並みがあった。

「こ、ここは……?」
「かくりよ。君たちが住んでる、うつしよとは別の場所」
「かくりよ……あやかし……。え、じゃあ、ゆうくんはあやかしなの?」
「うん。そうだよ。僕は狛犬のあやかし」

衝撃の事実に驚いたものの、平然と告白をする裕太を見ると、なぜか自分も少しだけ冷静になってくる。

「で、でも、狛犬は神様に仕えてるよね?」
「近い存在ではあるけれど神様ではないから、あやかしとして分類されるんだ」
「そ、そうなんだ……?」
「とりあえず、僕の家に行こう。早くそれを着替えないと」
「あっ……」

そういえば、と白無垢の婚礼衣装を着ていたのを思い出した。

「すぐ近くにあるから……というより、もう敷地内に入ってるけどね」
「えっ?」

──ゆうくんの家って、そんなに広いの?