神様の使いに溺愛されました



お茶の用意をしてくれていた鈴煉の手が止まり、体を起こしてこちらに向き直る。

「茉結様。旦那様がお帰りになられるようです」
「あ、はい」

鈴煉は耳がとても良いようで、足音で誰なのかが分かるらしい。
裕太が帰ってきたと分かると、すぐに教えてくれる。

「おかえりなさい! 裕太君」
「ただいま。茉結」

裕太は両手を広げて茉結を抱きしめようとしたが、ハッとした表情をして腕を下ろした。

「裕太くん?」
「茉結をすぐにでも抱き締めたいけど、着替えてからだね」
「え、あ……」

抱きしめてもらえると思っていた自分が恥ずかしくなり、顔を赤く染める。
裕太は笑いを堪えるように、喉の奥でくくっと笑う。

「すぐに行くから、部屋で待ってて」
「ハイ……」



茉結の部屋には、三人以上は余裕で座れるほどの大きなソファがある。
先日、裕太が買ったもので、「茉結と一緒に並んで座りたい」と思って買ってきたらしい。
和室の部屋に置いていても違和感のないデザインで、高級感のあるソファだ。
値段は怖くて聞けていないが、絶対に高いのには間違いない。

そして今、そのソファに裕太が座り、裕太の膝の上に横抱きのような形で茉結も座っていた。

「ねぇ、裕太君。私やっぱり隣に座るよ」

疲れているであろう裕太を心配して言ったのだが、「やだ」と言われてしまう。

「茉結とこうしててると疲れが取れるんだ」

そう言って、先程よりも強く抱きしめられる。
上半身を少しかがめて、こてん、と首を傾げて上目遣いをして悲しそうな目をしてこちらを見てくる。

「もしかして、嫌だった?」
「うっ……」

美形の仔犬ような姿に、胸がきゅんとしてしまうのも仕方がないだろう。ましてや、好きな人なら尚更。

「全然、嫌じゃない……」
「本当?」

ぱあっ、と嬉しそうな表情にまた胸が高鳴る。
ないはずの耳と尻尾が、嬉しそうに動いているように見える。

──歳上のはずなのに可愛いなんて。あんなこと言われたら甘やかしたくなっちゃう……。

はあ、と溜息を漏らすと裕太から心配された。

「やっぱり、嫌だった?」
「ううん! そうじゃなくてね、その……」

ぽつり、と小さく呟くように「これからも裕太君への好きがどんどん増えていくのかなぁ、って思ったの……」と言った。
小さな囁き声だったが、裕太は全て聞き取ったようだ。

「……茉結」
「?」

名前を呼ばれて、見上げるようにして裕太の方を向くと裕太の顔が目と鼻の先にあり、唇に感じる柔らかい感触があった。
それを理解するまで、数秒を要した。
理解した途端、茉結は目を見開き顔を真っ赤に染め上げた。それを裕太は、目を細めて愛おしそうに見ていた。


どれくらい、そうしていただろう。茉結にとってはそれが、永遠にも感じられた。
互いの顔が離れても、どこか夢見心地のままだ。

「茉結。息が止まってるよ」
「ぇ……あっ」
「ふふ。そんなに喜んで貰えたなら、もう(・・)我慢しなくてもいいね」
「へ?」

思わず素っ頓狂な声が出てしまった。

──もう、ってどういう……? いやまってそれよりも! ファーストキス……!

嬉しいやら、恥ずかしいやらで茉結の頭はパンク寸前だった。


そして、食事の用意が出来て呼びに来た鈴煉に、ほぼ全ての内容を聞かれており、ガッツポーズされていたことを、茉結は知らない。