茉結がかくりよへ来て、おそらく二週間程経った。
おそらく、と不明瞭なのはこの世界には時間の定義がない。
“空”と呼ぶのが正しいのか分からない所は、いつも朝方か夕方に見えるような色合いをしている。
時計もなければ、日付を確認する術もない。
それでも何となく時の流れが分かるのは、ご飯が一日三食あるからなのかもしれない。
──みんな、元気にしてるかな……。
ふとした時に考えるのは、自分の家族のこと。
狛神家の庇護にあるらしいので、身の安全は問題ないと聞いていても不安は拭えない。
はあ、と小さくため息を着くと「大丈夫ですか」と気配もなく言われて驚いた。
「あ、鈴煉さん」
「申し訳ございません。ため息を着いていらっしゃいましたので」
「ごめんなさい。大きかったですか?」
「いえ。ただ先程から何度も着いていらしたので。何か困ったことでもございましたか?」
──そんなにため息着いてたの!? 全然気づかなかった。恥ずかしい……。
熱くなる頬に手を当てて、気持ちを落ち着かせる。
「困ったこと、というか……家族のことで」
「茉結様のご家族ですか」
「その、やっぱり護られていると分かっていても不安で……」
「茉結様が不安になられる気持ちもわかりますが、今お会いになさるのは少々危険でして……」
「危険、ですか?」
「茉結様のご家族含め住居は、旦那様の強固な結界で守られておりますし、複数の護衛も付けております。ですが、茉結様ご自身が会いに行くのに少々問題がございます」
鈴煉は苦虫を噛み潰したように顔を顰めた。
「茉結様を狙う塵……いえ、身の程を弁えない阿呆な輩がおりまして」
──今、ゴミって聞こえたような?
気のせい、と言うには結構はっきり聞こえたものの、本人は真顔なので何も言えない。
「えっと、私を狙う人って……?」
思い出したくもない人物が頭をよぎる。
「おそらくですが、無礼にも茉結様に婚姻を迫った豚と気色の悪い蛇ですね」
鈴煉は相当苛立っているのか普段より口が悪いものの、茉結のことを思ってくれているのが伝わる。
──だけど、どうして蛇も?
何か関係があるのだろうかと頭を捻るも、何も思い当たる節がなかった。
「──ご安心ください」
「え?」
「茉結様のことは、旦那様と我々が必ずお守り致します」
「ありがとうございます」
“必ず守る”その言葉が茉結の心に深く染み込んだ。