「初めまして。秋雫の伴侶の阿保(あぼう)灯真です」

背筋を伸ばし、しっかりと頭を下げられたので茉結も同じように挨拶をする。

「は、初めまして。裕太君のは、伴侶の、希ノ宮茉結です……」

まだ自分から伴侶と口にするのは慣れないため、恥ずかしくて少し詰まってしまう。
ふと、灯真がじっとこちらを見てくるので、何だろうと首を傾げる。

「あんまり見るな。減るだろ」

すぐ隣にいた裕太がむすっとした表情で、茉結の腰を抱いて引き寄せる。

「いや、犬の牽制(・・)は凄いなぁって」
「これくらいは普通だ」
「やりすぎじゃない?」
「お前だって似たようなこと秋雫にやってるだろ」
「俺のはまた別だからいいの」
「灯真さまも兄様も何を言ってらっしゃるの?」

「茉結は気にしないでいいからね」「秋雫が気にするようなことじゃないよ」と同時に言われ、ふたりは「は、はい……」と頷くしかなかった。

その様子を春雫は、「若いっていいわねぇ」と優雅にお茶を飲みながら眺めていた。




***




とある豪華な貴賓室に、ふたりの男がいた。
長いテーブルを挟み、向かい合わせで長椅子に座っている。

「──も、申し訳ございません! あのあとすぐに探したのですが……見つけることが出来ず……。く、加えて謎の力で家からも追い出されて……!」

顔面蒼白で深く頭を下げているのは、茉結と無理やり結婚をしようとしていた成哉だった。

「ご安心を。それについてはしっかりと原因を突き止めてあります」
「ほ、本当ですか?!」
「ええ」

人良い笑みを浮かべている男は、長い銀髪をなびかせていた。
しかし、その表情からは何を考えているのかも予想がつかない。

「忌々しい妖怪め……! 俺の婚約者を奪いやがって……。絶対許さない」

──こいつ、私の前で……まあいい。こいつにはまだ利用価値がある。終わったら始末すればいい話。

丸い顔を歪めて苦い顔をするのを見て、実に滑稽だと思うがそれを顔に出すわけにはいかない。

「成哉さんの言う通りです。貴方の婚約者を奪う奴など、許す必要ありません」

にこにこと笑みを絶やさない男に、普通ならぞっとするはずだが成哉は彼を信頼しきっている。
この男に任せれば全て上手くいくと思っているのだ。今までもそうだったから。──自分が掌で転がされているとも知らずに。

──あの男(・・・)を殺せば、俺はあやかし界の頂点に立てるんだ……!

男は自分の輝かしい未来を想像して、ひっそりと気味の悪い笑顔を浮かべた。




***