春雫と祐貴には、帰ってもらうことになった。
裕太の意向で、ふたりきりで話をしたいから、と。
ふたりは快く了承してくれて、また後日来てもらうことになった。

「……今から、話すことは茉結ちゃんにとっては嫌なことかもしれない。もしその時は、僕のこと嫌ってくれて構わないから」
「よく、分からないけど……。ゆうくんのことを、嫌いになったりなんてしないよ」

裕太は少し目を見開いたが、すぐに柔和な笑みを浮かべた。

「ありがとう」

裕太は茉結にも分かりやすいように、説明してくれた。

「僕たち獣人系のあやかしは、必ず“伴侶”が存在するんだ」
「伴侶……」
「そう。それは、同じあやかしにいることがほとんどなんだけど、稀にあやかしじゃなくて人にいる時があるんだ」

──そういえば、ゆうくんのお母さんも伴侶って言葉を言ってた気がする。

「例に出すと、僕の両親もお互いに伴侶同士なんだ」
「そうなの?」
「伴侶は、お互いが魂で繋がっている存在だからね。強く惹かれ合うんだよ」
「でも、その話と私に何の関係が……?」

裕太は少し頬を赤く染めて、言いずらそうに口を開いた。

「実は、僕の伴侶が……茉結ちゃんなんだ」
「えっ……?」

──ゆうくんの、伴侶……? 私が……?

裕太の言葉を理解した途端、茉結は全身がじわじわと熱を持ち始めたのを感じた。

「私とゆうくんが、伴侶、なの?」
「ああ、そうだよ」
「は、伴侶ってことは、結婚するの?」
「そう、だね。僕は出来れば茉結ちゃんと結婚したいかな」

茉結は両手を、真っ赤になった頬を隠すように置いた。

──け、結婚!? 私とゆうくんが? い、いくら小さい頃はゆうくんのお嫁さんになる! って言っていたとはいえ、まさか本当に……?

「茉結ちゃんは、嫌じゃない?」
「え?」

言われてみれば、茉結は先程から微塵も嫌だとは感じなかった。
むしろ……。

「むしろ、嬉しいかも……」
「えっ」
「全然、嫌だって感じなかった。むしろ、ゆうくんの伴侶が私なんて、嬉しくて死んじゃいそう……」
「死ぬのは困るなぁ。でも──」

裕太は、茉結の両手を自身の両手で包むように握る。

「よかった。嫌われなくて……」
「嫌うわけないよ。でも、本当に私でいいのかな?」
「魂の伴侶だよ? 誰も反対なんて出来ないよ。それに、僕に口出しできる奴なんていないから大丈夫」

裕太に左手を取られて、左手の薬指がそっと彼の口元まで近づく。

「必ず僕が幸せにすると誓います。だから、僕の生涯の伴侶になってくれませんか?」
「はい。不束者ですが、どうかよろしくお願いします」

裕太が、薬指にキスをする。

ふたりは顔を見合せて、幸せそうに微笑み合った。