「ほら、祐貴さんもずっと座ってないで挨拶してくださいな」
「…………」

しかし、祐貴はぴくりとも動かない。
それどころか、段々と目つきの鋭さが増していく。

──え、わ、私なんかしたのかな?

こちらを恐ろしい形相で、見つめてくるので、この数分間で知らず知らずのうちに何かやってしまったのかと、茉結は内心慌てる。

「もう、祐貴さんったら。緊張して言えないからって、目で訴えかけないでくださいな。ちゃんと自分で言ってください」

──あれ、緊張なんですか!?

とても緊張しているようには見えないほど、鬼の形相をして、こちらを見ている。

「…………」

祐貴は無言のまま、首を横に振った。

「まったくもう……」
「父さんも相変わらずだね」

狛神家では見慣れた光景らしい。
裕太と春雫は呆れて苦笑した。

「ごめんなさいね。この人、熊みたいな体格なのに、極度の人見知りなのよ。だから私が代わって紹介するわね。裕太の父の祐貴さんよ」
「よ、よろしく、お願いします」

祐貴の方に向かって頭を下げると、彼も頭を下げてくれた。

──よかった。嫌われてはない、みたい。

「茉結ちゃんに会えてよかったわ。──それで、式はいつなの?」
「へ? しき……?」

満面の笑みで、春雫は問いかけてきたが、茉結には一体何の話なのかさっぱり分からない。

「母さん」
「……まさか、話してないの?」
「こっちにも色々あるんだ。まだ茉結ちゃんの気持ちが落ち着くまでは話せないよ」
「まあそう。残念ねぇ」
「?」

何も分からず、茉結はますます混乱する。

「ごめんなさいね。茉結ちゃん。裕太が話していないのなら、私たちからは何も言えないわ」
「そう、なんですか……?」

春雫は困ったような笑みを浮かべた。
ちらり、と茉結は裕太の方に目をやる。

「ゆうくん……」
「ん?」
「話して、ほしい……」
「!」

裕太が、茉結のためを思ってくれているのは分かる。

──本当にとこまでも優しいひと……。

「私、もう大丈夫だよ。だから話してほしい」
「……分かった。話すよ」