「おかえりなさいませ。裕太様、茉結様」
「うん。ただいま」
「あ、えっと、ただいま、です……」

夕方頃に帰ると、出迎えてくれたのは難波と鈴煉と数人の従者。
昨日のような多さではないため、茉結は少しほっとした。

「茉結様。お荷物をお持ちいたします」
「えっ、だ、大丈夫です。そんな重たいものでもないですから」
「そうですか……」

しゅん、と昨日のようにどことなくしょんぼりしているのは、気のせいなのだろうか。
鈴煉は表情にあまり変化がないため、とても分かりにくい。

── なんでだろう……。耳と尻尾が見えそうな気がする。

「ええっと……やっぱりお願いします」
「! はい。かしこまりました」

表情に変わりはないのだが、もし仮に今、彼女に尻尾がついていたら、嬉しそうに揺れていそうだ。

荷物を持って行った鈴煉の背を見ながら、茉結はぽつりと呟く。

「鈴煉さんって実は、中身も結構可愛いのかな……?」
「茉結ちゃん」
「ひゃっ」

驚いておかしな声が出てしまった。

「ご、ごめんね、考え事してて……」
「ああ、大丈夫。こっちもごめんね」
「ううん。それで、どうかしたの?」
「茉結ちゃんに会いたいってひとがいるんだけど……」
「えっ?」


客間のひとつに、裕太と一緒に難波に連れて行ってもらう。

「こちらでお待ちです」
「ありがとう。下がっていいよ」
「かしこまりました」
「あ、ありがとうございます」

難波は深く頭を下げて、その場を去った。

「入るよ?」
「うん」

──私に会いたい人って、誰だろう……。

まさか、と嫌な予感が頭を過ぎるが、そんなはずないと首を横に振る。

「失礼します」

裕太が襖を開けた先にいたのは、ふたりの男女だった。

「あらぁ、来たのね」
「…………」

薄桃色のふわふわとした長い髪に、紅葉のような紅い瞳。
小柄で守りたくなるような可愛らしい風貌の女性が、ちょこんと座っていた。
その隣には、座っているだけでも凄い威圧感があり、立ったら熊くらいはありそうな体格の男性。
裕太と同じ、白銀の髪と透き通る湖のような青い瞳をしている。

──あれ? このひと、もしかして……。

「久しぶり〜、裕太。元気にしてた? 秋雫は元気?」
「……母さん。来る時は前もって連絡してっていつも言ってるよね?」
「だって〜、裕太の“伴侶(・・)”が来るって訊いたんだもの。ねぇ、祐貴(ゆうき)さん」

祐貴と呼ばれた男性は、女性の方に柔らかく微笑みかけながら静かに頷いた。

「相変わらずだな……」
「あ、の……ゆうくん、私に会いたいひとって」
「ああ、ごめん。紹介するよ。僕の両親だ」
「初めまして〜。あなたが茉結ちゃんね! お話で訊いてたけれど、すっごく可愛いわねぇ」

茉結よりも十センチ近く背の低い女性が、小走りでこちらへやって来る。

「あ、えっと……」
「ああ、ごめんなさい。名乗るのが先ね。初めまして。裕太と秋雫の母の春雫(はるな)です。よろしくねぇ、茉結ちゃん」
「よ、よろしくお願いしますっ」

ふふ、と春雫は少女のようなあどけない可愛らしい笑みを浮かべる。