ふと、神様の話をしていて茉結は、神使のことについて話されていないことに気づいた。
「ねぇ、ゆうくんが言ってた神使の代表って?」
「ああ、その話もしておかないとだったね」
神使には、哺乳類や爬虫類、鳥類に想像上の生物など様々な種類がいる。
一般的に多く見られるのは狛犬だが、狐や兎、蛇なども数多く存在する。
他にも、数は少ないが狼や猫の神使もいるらしい。
神使の役割は、その神社の神を守護すること。
また、場合によっては神の代わりに使いとして人間の前に姿を現すこともあり、予言や助言をすることがある。
「──と言っても、滅多に予言なんてしないけどね。それに最近は、僕たちの姿が視える人が少ないから」
「神社の人でも見えないの?」
「宮司さんとかとは、たまに目が合うけど……。最近は僕たちみたいな存在が否定されてきてるから」
「そっか……」
「だから、珍しいんだよ」
何が珍しいのだろう、と茉結は首を傾げる。
「茉結ちゃんには、僕が視えてたでしょ?」
「あっ!」
──あれ? でも……。
裕太が助けてくれたあの時は、茉結以外にも見えていたはずだ。
「私以外の人にも視えてたのは?」
「あれは、誰にでも視えるようにしてたんだ。それが無くても視えるのは、茉結ちゃんだけだよ」
「どうして、私には視えるのかな」
「ああ、それは……」
裕太はどこかバツが悪そうに、目線を逸らした。
「は、話を戻すね!」
「? うん」
「えっと、神使の話だったよね」
「あ、うん。神使の代表?がまだ、かな」
「ああ、そうだったね。──神使の代表には、必ず苗字に『神』の文字が入ってるんだ」
「神……」
それは、その神使一族の中で、神に選ばれた者に苗字に付けられるという。
その選ばれ方は、神使によって異なる。
「狛犬の場合は、『強さ』かな」
「強さ?」
「身体的強さ、心の強さだったり。あやかしの場合は霊力も入るかな。他にもあるだろうけど。当時一族の中で一番強かったのが、うちだったんだろうね」
「今は違うの?」
「今もそうだよ。一族に限らず、狛神家と張り合える神使はいない。僕個人になると、ひとりだけいるけど……。でも、あいつ神使じゃないからなぁ」
後半は上手く聴き取れなかったが、裕太が強いのに間違いは無さそうだ。
──凄いなぁ。小さい頃は、一緒に遊んでくれてたお兄ちゃんみたいだったのに。今は……。
「どうかした?」
「えっ?」
「僕の顔ずっと見てたから、何かついてるのかなって」
「う、ううん! なんでもないの。ちょっと考え事してただけ」
「そう?」
茉結はこくこくと、頷いた。
裕太は少し納得のいかない表情をしたが、「そっか」とすぐに笑顔に戻った。
「じゃあ、次はどこに行こうかな。連れて行きたいところが沢山あるんだ」
「ふふ。楽しみにしてるね」
裕太から「はぐれないように」と繋がれた左手が、とても熱く感じた。