「かくりよはあやかしだけじゃなくて、亡くなった人も住めるの?」
「……住める、というわけじゃない。ただ、ここで一時的に休息を取ることは出来る」
茉結は首を傾げる。
それに裕太は、微笑を浮かべて「少し座って話そうか。神使のことも一緒に話すよ」と言った。
そして少し歩いた先にあった甘味処で、軽く休憩を取りながら、裕太の話に耳を傾ける。
「かくりよが、あやかしが住む場所っていうのは話したよね」
「うん」
「だけど、それだけじゃなくて、かくりよは黄泉と繋がる所でもある。死者にとっては休憩場所みたいなところかな」
黄泉へは一方通行なので、一度そっちへ逝ってしまえばこちらへ戻ってくることは出来ない。
だからほとんどの死者たちは、黄泉へ逝く前にうつしよに近いかくりよで休憩を取り、一時でもうつしよを感じていたいのだという。
「それでも、ずっとここにいられるわけじゃない。個人差はあるけど、いつかはお迎えが来るから」
「お迎え?」
「蝶が迎えに来るんだ。本人にしか見えない蝶がね。そろそろ黄泉へ行こうって導くんだよ」
「へぇ……」
「かくりよには寄らずに、そのまま黄泉に行った人には現れないけどね」
黄泉の国に逝けるのは、本来は死者のみだが……例外もいたという。
「イザナギ様だよ。あの方は、自分が生きているにも関わらず、黄泉に行って奥方であるイザナミ様を迎えに行ったけど、結局は逃げてしまったから」
「確か、『黄泉の国の神様とお話するから、それが終わるまでは覗かないで』って言われたけど、待てなくて覗いちゃったんだよね」
「そう。それに怒ったイザナミ様は、イザナギ様を追いかけた。イザナギ様は黄泉の国から逃げ切れたけれど、奥方を連れ戻すことは叶わなかった」
裕太は呆れたような表情で、「あの方たちには困ったものだよ」と苦笑を浮かべた。
「会ったことがあるの?」
「うん。両方ね」
「えっ!?」
イザナギに会ったなら、まだ分からなくはない。
だが、イザナミに会ったとなれば、裕太は一度死んでしまったという解釈になってしまう。
では目の前にいる裕太も一体誰だということになるのだが……。
「ああ、茉結ちゃんが思ってるようなことじゃないよ」
「あっ、よ、良かった……」
「イザナミ様の方は分身にお会いしたことがあるんだよ。仕事で多賀大社に行くことがあるから、それで何度かお会いしたんだ」
──分身なら黄泉から出られるのね……。
「神様は基本的に、本社に本体がいて分社に分身を置いてるんだ。祀られている神社の数が多い神様ほど、分身の数も増えるんだ。イザナミ様のように、黄泉にいる神様は分身しか置けないけどね」
「そうなんだ」