「ここが、僕たちが住むかくりよだよ」
茉結の目の前に映るのは、まるで明治か大正時代のような、木造の建物が多く並ぶ町並みだった。
──タイムスリップしてきたみたい……。
裕太の家の敷地は塀で囲まれていて、外の様子はあまり見られなかったのと、初めて来た時も屋敷の方に目がいってしまい、街を気にする余裕がなかったので、こうしてしっかりと見るのは初めて。
「行こうか」
「うん!」
屋敷を出てから少し歩いたところにあった、たい焼き屋に目が止まる。
「わあ、これ美味しそう!」
「食べる?」
「えっ、いいの?」
「うん。おばあちゃん、このたい焼きふたつください」
屋敷の近くにあった和菓子のお店では、ひとりの老婦人が営んでいた。
「はいはい。味は何がいい? 色々あるからねぇ。チーズやチョコレートもあるよ」
古風なお店だったので、餡子や抹茶など和風な味が多いなのだろうと、勝手に思っていたが、それ以外にも沢山あるようだった。
「えっと、じゃあチョコをひとつ」
「僕は……白餡にしようかな」
「チョコと白餡だね。ちょっと待っててね。すぐ作るから」
老婦人がお店の奥に行ったところで、茉結はハッとした。
「ど、どうしよう。私、お金持ってない……!」
思えば、裕太にここに連れてこられた時に、身一つだったことを今さら思い出した。
「僕が払うから気にしなくていいよ」
「で、でも……」
「それに、うつしよとかくりよは、お金が違うんだ」
「えっ、そうなの?」
「そう。だから、遠慮なく欲しいものがあったらなんでも言って」
──流石になんでもは……いや、あの屋敷の大きさなら有り得そう。
茉結は笑って返事を誤魔化した。
たい焼きが焼き上がるのを待っていると、ひとりの女性がお店にやって来た。
「あら。こんにちは。あなた達もここのたい焼きを買いに来たの?」
「……」
「あ、こんにちは。はい。そうなんです」
「そうなの。ここの鯛焼き美味しいわよ。色んな味があって。あっちにいる夫も凄く好きでね」
あっちにいる、とはどういう意味だろう。
ふと、茉結はそこでとあることに気がついた。
──この人、着物が左前になってる……?
見たところ、着物は着慣れている様子なので、間違えたということではないだろう。
だとすると、考えられるのはひとつだけ。
「あら? ねぇ、あなた着物が──」
「お待ちどおさま。たい焼きふたつ焼き上がりだよ」
女性が茉結の着物に手を伸ばしかけた時、店の奥から老婦人が商品を手渡してきた。
「ありがとう。おばあちゃん」
「まいどあり」
裕太は老婦人にお金を払って、たい焼きを貰うと、茉結の手を引いてそそくさと店を出た。
「ゆ、ゆうくん?」
「茉結ちゃん。あの人の格好に気づいた?」
「えっ、あ、うん……。ねぇ、あの人ってもしかして」
「ああ。──もう既に亡くなってる人だよ」
裕太の言葉に、自分もなんとなく予想はしていたものの、驚いてしまう。