「谷口先輩は?」

「もう一度、下流まで下ってからテント戻るって」

「砂月は?」 

愛子が心配そうに俺に訊ねた。俺は、愛子から視線を、外してから返事した。

「あぁ、砂月は、テントに戻るように言った、駿介もアスレチック確認したら、テント戻るだろうし」

「そっか、砂月も心配だけど、今は桃だね」

俺達は、先輩と桃のコースを遡っていく。

「どこいったんだよっ」

 見渡せど見渡せど樹木が生い茂るほか、動くものは何一つない。

「子供の、足でそんな遠くっ、いけないよね?」

愛子の息が上がっていた。

「藤野、このままテント戻れよ、俺ここから迂回して谷口先輩の居る川に合流するから」

「分かった、砂月も、あたしがみてるから」

「サンキュ」

背を向けた俺に再度、愛子から声が投げかけられる。

「春宮彰!そういえば、桃のことで、少し気になってることあって」

「何?」

「あ、アンタ達三人がコース決めしてた時に、砂月と三人でおしゃべりしてたんだよね、そしたら桃が、早くお父さんに会えたらいいなって話してて」

「お父さん?」

「うん、砂月の前だったし、先輩がそういうことにしてるっぽかったから、あたしは何も言わなかったんだけど……」

愛子が、時折視線を泳がせながら、言葉を選んでいるのが分かった。

「そういうことって?」

直感で愛子の言うとこがわかるような気がした。鼓動が少しずつ速くなる。

「……谷口先輩のお父さん、亡くなってるんだよね」

愛子が俺の目をじっと見た。