「いねぇな」

下足ホールに着いて、ゴキが居ないことを確認してから、俺は、砂月の白くて細い手のひらをそっと離した。

「彰、ありがとう」

砂月は、そう言って上履きに履き替えると、当たり前のように俺の横に並んだ。

(……さっきは驚いた)

砂月が、俺と手を繋ぐ事を、あんな恥ずかしそうに顔を赤くするなんて。

俺の心臓の音が、砂月に聞こえてるんじゃないかと思うくらいに跳ねてうるさかった。

それに砂月に言われるまで、下足ホールまで手を繋ぐのが当たり前だったから。幼稚園からのクセみたいなもんだろう。

ーーーー今まで、そうやって砂月の手を引くのは俺の役目だったから。

「あの……」

教室までの階段を登りながら、砂月が、俺を見上げた。

「何?どした?」

「……この間なんだけど……」

「この間?」

「うん……私が図書館に本返しに行ってて、下足で彰が、まっててくれた日なんだけど……その、彰と女の子が話してたの……聞いちゃって」

思わず、俺は固まりそうになった。砂月に聞かれてるとは、思ってなかったから。


ーーーー俺は3日前、砂月を待ってる時に下足ホールで、一つ年上の女の子からデートの誘いを受けた。

「断ったよ」