「で?何がききたい?俺に聞きたいことがあって待ってたんだろう?」

父の切長の瞳は、職業柄だろうか、息子の俺でさえも、目力に吸い込まれそうになる。

「……あ、実はさ、陸上部の歓迎会かねて、たぬき池に肝試し行くんだけど、あれ、父さん祓ったって言ってたよね?」

俺は、おそるおそる訊ねた。 

「たぬき池……あぁ、昔、溺れた女性の霊が居てね、神札だけでは、祓えなかったから、池の中央に社をたてて、更に中に強めの神札(しんさつ)を貼ってある」

「砂月、行っても大丈夫だよな?」

父は、湯呑みの緑茶を口に含みながら、唇を持ち上げた。

「問題ない。まず砂月ちゃんが憑かれることはないだろう」

ほっとした俺の顔を見ながら、父が立ち上がると、木製の書類棚の1番上から、神札を取り出した。 

「まぁ、砂月ちゃんは、憑かれやすいからな、念のため、お前にこれを一応渡しておく」

「え?俺、使ったことねぇんだけど?」

「そうだな、お前の今の力なら、この神札を砂月ちゃんに貼って、いつもの祓いの言葉を言えば大丈夫だろう」

「貼り方は?」

「憑かれたら、勝手に神札の方から張り付いていくから大丈夫だ」

「分かった、ありがとう」

神札をもって、立ち上がった俺を、父がじっと見つめた。