3歳から隣同士で育った俺達は、桜が満開のこの春、高校一年生になった。

市内の公立高校まで、毎日、往復二時間かけて、俺は、砂月と一緒に自転車で通っている。

「ご馳走様でした」

「どういたしまして」

隣で自転車を漕ぐ砂月が、巨大なおにぎりを今日も完食した俺を、嬉しそうに眺めた。

俺は、おにぎりが包まれていたラップを、自転車を漕ぎながら、ポケットに押し込んだ。  

「あーどうすっかなぁ、クラブ」

自転車を漕ぎながら、俺は、空を見上げた。

「彰、足はやいから、陸上部向いてると思うよ。二年の谷口(たにぐち)先輩?だっけ?毎日、彰に勧誘に来てるね」

「あー……今日も来んのかな。先輩、鼻息荒いんだよな、いっつも声デカすぎて、唾飛んでくるしさ、早く諦めてくれねーかな」 

あはは、と砂月が笑った。

「そもそも砂月だろ?谷口先輩に言ったの」

「あ、違うの、愛子(あいこ)ちゃんが、陸上部のマネやってて、足速い子知らないかって聞かれたから、つい彰のこと話しちゃったんだけど、まさか谷口先輩が……」

そこまで言うと、谷口先輩の独特な外見と口調を思い出したのか砂月が、口に手を当てて笑った。

「朝イチ至近距離で見る、俺の身にもなれよな」

今度は、ケラケラと声を上げて砂月が笑った。

(可愛いすぎんだろ)

俺は、勿論言葉にせずに、エクボを見せながら笑う、砂月を横目でチラ見する。

「でも、彰クラブ入るなら、陸上かなって中学の卒業の時、言ってたよね?クラブするのやめたの?」

少しだけ真面目なトーンの砂月に、どきりとする。
(そんなの決まってんじゃん)

ーーーー砂月と帰りたいから。砂月が憑かれたりしないように、いつも側に居たいから。